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判例傾向
後遺障害の逸失利益の算定方法について
(1)算定基礎となる収入
逸失利益算定の基礎となる収入について、判例では原則事故前の
現実収入を基礎としていますが、将来それ以上の収入を得られる証明が
可能であればこれを基礎収入額としています。
また、現実収入額が賃金センサスを下回っている場合は、将来平均賃金を
得られる蓋然性があれば、逸失利益はは将来の可能性を補償するものにつき
平均賃金を基礎として計算しています。
(2)労働能力喪失率
基本的には自賠責の基準と同じ「労働能力喪失率表」を使用していますが
被害者の職業、年齢、性別、後遺障害の部位や程度等を総合判断して
個別に考えています。
(3)労働能力喪失期間
①始期
症状固定日が通常です。
未就労者は原則18歳です。
大卒賃金前提で計算する場合は大学卒業時としています。
②終期
原則67歳です。
症状固定時の年齢が67歳を超える場合は平均余命の
1/2を労働能力喪失期間としています。
ただし、職種、地位、健康状態、能力等を勘案して
個別に判断する場合もあります。
③むち打ち症の場合
喪失期間は12級で10年程度、
14級で5年程度に制限する場合が多いです。
(4)中間利息控除係数
従来はライプニッツ係数と、新ホフマン係数が使われていましたが
現在では、東京地裁がライプニッツ係数を採用しており、大阪地裁も
名古屋地裁も同様です。この低金利時代には多少違和感はありますが、、、。
1.追突事故によるむちうち症(他覚症状のないもの)
後遺症による逸失利益
本件事故により頚椎捻挫等の傷害を受けたが、他覚症状所見はなく、本件事故後約6ヵ月(平成10年9月24日)で症状固定し、原告の後遺障害は頚椎部等の局部に神経症状(後遺障害等級14級10号)を残したものということができる。
(画像からは外相に起因する異常所見は認め難く、医学的に証明し得る神経学的所見は認められない。)
結果、その労働能力を5%3年間にわたり喪失したものとみるのが相当である。
基礎収入に付いては、原告の平成10年9月から11月までの平均月収を使用し、ライプニッツ方式により中間利息を控除して算定する。
1,023,200円×0.05×2.7231 =547,798円
(通院慰謝料)
S外科医院(3月22日〜3月24日、通院実日数3日)
S大学附属T病院(3月24日〜10月16日、通院実日数27日)
H病院(4月7日〜9月24日、通院実日数100日)
100万円
(後遺症による慰謝料)
100万円 → (自賠責保険の14等級は32万円)
東京地裁平成13年5月28日判決
2.後遺障害(頚椎椎間板ヘルニアにより障害等級12級12号該当)に伴う逸失利益と慰謝料
後遺障害逸失利益について
原告は、事故当時49歳の女子であり、平成9年5月の症状固定時において、50歳であることが認められる。原告の後遺障害は、その内容等に鑑み、5年間存続するものと認めることができる。原告の後遺障害等級は、12級(労働能力喪失率14%)である。そこで原告につき、年収100万円を基礎にライプニッツ方式(係数4.3294)により年5分の割合による中間利息を控除して逸失利益を算定すると、その額は次の計算式のとおり606,116円となる。
1,000,000円×4.3294×0.14=606,116円
逸失利益 606,116円
後遺障害慰謝料について
原告の後遺障害の内容、程度(12級)、その他の一切の事情に鑑みるとき、原告の後遺障害慰謝料として2,300,000円をもって相当と認める。
慰謝料 230万円
大阪地裁 平成12年4月25日判決
3.32歳の男性、後遺障害等級9級による逸失利益と慰謝料
逸失利益について
症状固定時の平成10年賃金センサスによる32歳の全男子労働者の平均賃金は年収5,270,400円である。被告の後遺障害の症状や後遺障害等級(9級)からして、被告に残った後遺障害により、被告はその労働能力の35%を喪失したものと認めるのが相当である。稼働年数を67歳までの35年としてライプニッツ方式により年利5%の中間利息を控除すると、その係数は16.3741であるから、後遺障害による逸質利益は次のとおり算出できる。(途中省略)
5,270,400×0.35×16.3741=30,204,319<
逸失利益 30,240,319円
慰謝料について
本件事故による被告の受傷の部位程度、残った後遺障害の部位程度のほか、入通院期間、通院の頻度等の事情のほか、本件事故を巡る原告側の対応(ことに受傷3ヵ月後から病状照会を繰り返し、債務不存在確認を求める調停の申立や本訴の提起を提起したことは、本件事故で精神症状を生じていた被告にさらに深刻な影響を与えた可能性がある。)など諸般の事情を総合すると、本件事故により被告が被った精神的損害を慰謝するには、合計850万円をもって相当とする。
慰謝料 8,500,000円
神戸地裁 平成12年3月30日判決
4.23歳の男性、後遺障害等級7級による逸失利益
逸失利益について
後遺障害の逸失利益算定の基礎収入としては、症状が固定した平成10年の高卒男子労働者全年齢平均賃金5,288,800円の3分の2の額を用いることとする。
被告は高卒であるが、本件事故当時の収入(ラジオ番組に週1回レギュラー出演するとして、アルバイト収入と合わせて年額役120万円弱)は、平成8年高卒男子の20才〜24才の平均賃金3,320,100円の約3分の1である。
芸能界は競争が厳しく、多くの者が途中で他の道に転進することを余儀なくされることは公知の事実である、被告も本件事故に遭遇しなかった場合でも、将来芸能タレントの収入を逸失利益算定の基礎とすることはできない。
また、被告の収入実績に照らすと、将来高卒男子労働者の平均賃金と同程度の収入を得る見込みがあると推定することも合理性に欠けると言わざるを得ない。
とはいえ、芸能タレントとしての道を諦めた場合にはアルバイトではなく定職について本件事故当時よりは高水準の収入を得られる可能性も否定できない。
後遺障害 7級 労働能力喪失割合56%
就労可能年数 44年(症状固定時23才)
ライプニッツ係数 17.6627
逸失利益の算出
5,288,800×2/3×56%×17.6627=34,874,745円
大阪地裁 平成13年5月29日判決
5.44歳の男性、後遺障害等級併合11級による逸失利益(基礎となる収入の考え方)
逸失利益の基礎となる収入が少ない場合の考え方について
症状固定時44歳の男性で、平衡機能障害(12級12号)、外貌醜状(12級13号)、併合11級のケース。仕事が派遣社員、で事故前3か月の収入は62万円余(年収250万円余)であり、事故前3年間の収入を裏付ける証拠はないが、過去(事故6年前から4年前)には平均賃金を超える収入を得ていた時期もあり、44歳では再就職の可能性もあるとして、賃セ男性学歴計全年齢平均の7割にあたる396万1370円を逸失利益算定の基礎収入とした。
東京地裁 平成16年7月5日判決
6.右手関節の障害(10等級10号)
傷病名 右外傷性関節症 症状固定時 満46歳
手関節他動(自動も同じ)
背屈 15度(右) 60度(左)
掌屈 25度(右) 65度(左)
堯屈 10度(右) 25度(左)
尺屈 15度(右) 45度(左)
争点 労働能力喪失率
(原告側主張) 労働能力喪失率は、21年間の労働能力喪失期間を通じて27%である(後遺障害等級10級10号)。後遺症等級認定の理由とされている右手関節の機能障害のほかに右肩関節にも機能障害がある。さらに握力の低下等があるが、因果関係が必ずしも明らかでないために、等級認定とはされておらず、原告としては不満だが、これ以上等級が下がることはない。
(被告側主張) 症状固定から11年経過後の残りの労働能力喪失期間10年は、14%になるというべきである。右肩症状、右手関節痛については、時間の経過とともに改善し、また、右手関節の可動域については、障害に対する慣れや代償動作を獲得することにより数年で喪失率は半減する可能性が高い。
(当裁判所の判断) 原告の後遺障害は、自賠責保険の10級10号(右手関節の機能に著しい障害を残すもの)に該当し、右手関節の可動域は、左手関節の32%に制限されており(10級10号は、50%以下に制限されているものをいうが、原告の制限は、50%をかなり下回る程度である。)、原告は、現在でも就職先が見つかっておらず、その年齢、後遺症の程度を考慮すれば、再就職、収入の確保にも相当の困難が予想されるというべきであるから、これらの点からすれば、労働能力喪失率は、労働能力喪失期間21年間を通じて27%と認めるのが相当であり、これを低減すべき事情は認められない。
大阪地裁 平成13年11月28日判決
7.右上肢の知覚障害(右手の親指とひとさし指がしびれる)
右上肢の知覚障害については、原告(56歳)の加齢性の頚椎の変形性変化、すなわち、第4/第5、第5/第6、第6/第7頚椎にかけて椎間板の膨隆と椎体の骨棘による脊柱管の狭小化(特に第6/第7頚椎の脊柱管の狭小化が著しい。)椎間孔の狭窄が本件事故前から存在し、これに、本件事故の衝撃が加わることによって、脊髄又は神経根を圧迫する状況が作り出され、その結果発症したと考えれるから、前記知覚障害は医学的な証明のある神経症状として、後遺障害等級12級12号の認定を受けたものであり、合理的なものと考えられる。
この後、素因減額について(事故前に加齢性の変形性頚椎症があったので、そのことによって減額すること)、判決では述べていますが、省略します。
(結果は10%減額です。)
東京地裁 平成14年1月29日判決
8.外貌醜状(顔の傷跡)
原告は、本件事故により、左拇指基節骨剥離骨折、前額部切創、頚椎捻挫等の傷害を負い、事故当日の平成10年4月11日から同年12月19日までの間、通院治療を行ったこと、右最後の通院日に原告の症状が固定したこと、原告の本件事故による後遺障害について、平成10年11月4日付の後遺障害等級事前認定票において、一手の拇指の指骨の一部喪失により後遺障害等級13級と認定されたこと、その後、原告の前額部に長さ3センチメートルの創痕があることを理由とする異議が申し立てられ、平成11年3月1日付の同認定票において、右創痕について、女子の外貌醜状に該当するとして、後遺障害等級併合11級と認定されたこと、原告は、昭和54年12月1日生の女子で、前記症状固定時19歳であったこと、原告は本件事故当時車用品店に就業し、接客、レジ打ち、事務等を担当していたこと、原告自身は接客業に携わることを望んでいることがそれぞれ見とめられる。
右認定事実及び本件に顕れた諸般の事情に照らせば、原告が本件事故により被った後遺障害について、これを慰謝するに足りる金額は金350万円を下らないものと認めるのが相当である。
よって、原告が被った後遺障害慰謝料としての損害額は金350万円と認められる。
1 証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告の前額部には、長さ3センチメートルの創痕以外にそれより小さな創痕が多数あること、原告は、高校卒業後、平成10年3月16日から自動車部品、用品販売を業としている会社に勤務を始め、接客、レジ打ち、事務等を担当していたこと、本件事故後、原告が本件事故により休業したのは、1日か2日だけで、それ以外は通常通り仕事に出ていたが、本件事故で被った障害の影響により仕事の能率が下がったことあるいは前額部の創痕が気になったことなどから職場に居づらくなり、原告は、平成11年10月15日、退職したこと、本件事故後、右退職するまで、原告の給与が下げられたことはなかったことがそれぞれ認められる。
2 右認定事実に加え前記一1で認定した事実を併せ考慮すれば、原告が本事故で被った一手の拇指の指骨の一部喪失により、原告の労働能力は制限される結果となり、また、前額部の創痕による外部醜状は接客業への就業等を制限する要因となるものとみられるから、右両後遺障害により、原告の労働能力が一部喪失したと認めるのが相当である。
そして、それらの後遺障害の程度を考慮すれば、労働能力喪失の割合は20パーセントと認めるのが相当である。
また、後遺障害の程度等諸般の事情に照らせば、喪失期間は20年間とするのが相当であり、逸失利益の基準となる収入額について、原告は平均賃金を取得できる蓋然性があったと認められるから、全年齢平均賃金センサスを基準として逸失利益を算定するのが相当である。
そうすると、本件事故による後遺障害を原因とする逸失利益は、金320万7100円(全年齢平均賃金センサス)×0.2(労働能力喪失割合)×12.4622(喪失期間20年間とするライプニッツ係数)=金797万5808円となる。
よって、本件事故による逸失利益としての損害額は、金797万5808円と認められる。
岡山地裁 平成12年3月6日判決
9.歯牙障害と外観醜状の後遺障害の逸失利益否定し、慰謝料を増額
歯牙障害(12級3号該当)と概観醜状(12級13号該当)により併合11級の後遺障害が残った男性について、労働能力の喪失は認められないが、 原告は事故により9歯を失なったのに加えて、ブリッジ治療の必要上、さらに4歯に補綴を加え、結局、事故のため合計13歯もの健康な歯に補綴を加えなければならない結果となった。
そして、いまだ、独身の身である原告にとって、上の前歯5歯についての取り外し式の局部床義歯は、生活上の不便をもたらすことに加えて、精神的にも相当な苦痛を与えるものと推察される。
さらに、外貌醜状については、これによる直接的な労働能力への影響は認められないものの、原告が、瘢痕の存在を気にして、対人関係や対外的な活動に消極的になることはあり得ないではなく、これが間接的に労働の能率や意欲に影響を及ぼすことは考えられるから、上記2点について後遺障害慰謝料の増額事由として考慮すべきである。 よって通常の併合11級は390万円のところ650万円とする。
東京地裁 平成14年1月15日判決
10.商社営業マンの顔面外貌醜状につき10年間の労働能力喪失を認定
被害者は商社の営業マンで年間数百人の得意先と会い営業活動を行っていること
また本件事故による顔面裂挫創は前額部は長さ5センチメートル、左頬部は8センチメートル
に達していて隠しきれるものではなく精神的苦痛がおおきいのみならず、人と会うのが
消極的になるなど仕事の能力低下をもたらしたとして、10年間にわたり10%の
労働能力喪失をに止めることが妥当と判断した例
名古屋地裁 平成3年1月25日判決
◆判例は参考にはなりますがあくまで個別の一つの交通事故に
対して下された司法判断です。
したがって事故の事実や背景や年齢・証明の程度などが異なれば
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